河童

audiobook (Unabridged)

By 芥川龍之介

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『河童』(かっぱ)は、芥川龍之介が1927年(昭和2年)に総合雑誌『改造』誌上に

発表した小説であり、当時の日本社会や人間社会を痛烈に風刺、批判した小説です。

芥川の晩年の代表作のひとつで、また、芥川の命日7月24日が「河童忌」と呼ばれる理由にもなりました。

これはある精神病院の患者、――第二十三号がだれにでもしゃべる話である。

彼はもう三十を越しているであろう。が、一見したところはいかにも若々しい狂人である。

彼の半生の経験は、――いや、そんなことはどうでもよい。

彼はただじっと両膝をかかえ、時々窓の外へ目をやりながら、

(鉄格子をはめた窓の外には枯れ葉さえ見えない樫の木が一本、雪曇りの空に枝を張っていた。)

院長のS博士や僕を相手に長々とこの話をしゃべりつづけた。

もっとも身ぶりはしなかったわけではない。

彼はたとえば「驚いた」と言う時には急に顔をのけぞらせたりした。

僕はこういう彼の話をかなり正確に写したつもりである。

もしまただれか僕の筆記に飽き足りない人があるとすれば、東京市外ララ村のS精神病院を尋ねてみるがよい。

年よりも若い第二十三号はまず丁寧に頭を下げ、蒲団のない椅子を指さすであろう。

それから憂鬱な微笑を浮かべ、静かにこの話を繰り返すであろう。

最後に、――僕はこの話を終わった時の彼の顔色を覚えている。彼は最後に身を起こすが早いか、

たちまち拳骨をふりまわしながら、だれにでもこう怒鳴りつけるであろう。

――「出て行け! この悪党めが! 貴様も莫迦な、嫉妬深い、猥褻な、ずうずうしい、

うぬぼれきった、残酷な、虫のいい動物なんだろう。出ていけ! この悪党めが!」

河童