＜内容紹介＞

漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地が幻想的でもあり、夢のようでもある「ファンタスティック」な漢詩。

時代背景や作者の境遇を交えた色彩豊かな漢詩の魅力に溢れる講義です。

＜第十二回 貧窮の中でへ＞

秦州在住期、杜甫は薬草の栽培、販売などをして生計を立てようとしましたが、おおぜいの家族を養うには不十分でした。五言律詩「空囊（くうのう）」は、その苦悩を書きとめたものですが、そこに独特のほろ苦いユーモアが漂うのが特色です。

五言古詩「李白を夢む二首」其の一は、敬愛する大詩人李白が叛乱軍の一員と見なされて投獄されたとの報を聞き、同情と励ましの思いを詠んだもの。誠実そのものの詩です。五言律詩「秋日 阮隠居 薤三十束を致す」は、秦州の隠者阮ボウからニラを贈られ、感激して作ったもの、"ニラの薬効は、私の関節や胸の病にてきめんだ。味覚の楽しみと健康回復の双方に心配がなくなりました"と喜んでいます。阮ボウへの礼状に添えて送られたものでしょう。

杜甫はこの時期、瘧疾（おこり）と呼ばれる熱病の発作に苦しめられていました。

＜収録作品＞

空囊（くうのう） 五言律詩

夢李白 五言古詩

秋日阮隠居致薤三十束 五言律詩

＜宇野直人（うの・なおと）＞

昭和二十九年、東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士。現在、共立女子大学国際学部教授。著書に『中国古典詩歌の手法と言語』（研文出版）『漢詩の歴史』（東方出版）『漢詩の事典』（共著、大修館書店）など。平成十九年、NHKラジオ「古典講読――漢詩」講師、平成二十年より同「漢詩をよむ」講師。