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山本周五郎は「文学には"純"も"不純"もなく、"大衆"も"少数"もない。ただ"よい小説"と"わるい小説"があるばかりだ」を信念とし、普遍妥当性をもつ人間像の造形を生涯の目的とした作家で、時代小説を中心に沢山の作品を残しています。
その作風は今なお古臭さを感じさせず、繊細に描かれた人の心の機微や人情に、思わず笑わされたり、胸を打たれたりする魅力に溢れています。
<あらすじ>
二月下旬の寒い朝のこと。五大主税介の屋敷に深松伴六が訪れる。まだ良人が休んでいるので、妻の千世が応対したが、伴六はひどく昂奮して震えながら、 「とうとう徒士組と衝突しました」
という。そして、伴六は徒士組との決闘の場所と時刻を伝えると、馬で早々に掛け去ってしまう。千世は大変なことになったと狼狽した。彼女を恐怖させたのは夫がその戦いの中で傷つくかもしれないこともあったが、一番はもしこの決闘が私闘であったならということであった。それは武士の道に外れたことであり、良人を行かせてはならないと千世は決意したのだ。
しかし後日、決闘の知らせを知らせなかったことが原因で、主税介は藩内で卑怯者と罵りを受け、やがてその噂は藩内に広まってしまう。
「なんということだ、なぜおれに知らせて来なかった、深松はどうしたのだ」 夫の怒りと疑惑のこもった呟きを聞いて、千世は思い悩んだ。
やがて、深松伴六は間違いなく自分の屋敷に知らせにやって来たことを知った主税介は、ふと思い当たり、妻にその真相を問うのだが......
山本周五郎(やまもと・しゅうごろう)
1903~67年。小説家。山梨の生まれ。本名・清水三十六(さとむ)。名は生まれ年からつけられ、筆名は東京で徒弟として住み込んだ質屋「山本周五郎商店」にちなんだ。20代前半に作家活動を始め、39歳の時『日本婦道記』が直木賞に推されたが受賞辞退。その後も多くの賞を固辞する。江戸の庶民を描いた人情ものから歴史長編まで作品は数多い。