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東京 日本橋で生まれ、お坊ちゃん育ちで内気な性格だった谷崎潤一郎
16歳の時、父親の事業失敗により、築地精養軒の主人北村家の書生になりました。
中学時代から文才として知られており、「学友会雑誌」に作文や漢詩を発表して注目されていた谷崎は、 旧制一高を経て東京帝国大学に進学するも、授業料未納のために退学処分となりました。
24歳の時には、小山内薫らと第二次「新思潮」を創刊。
『刺青』などを発表し、永井荷風の絶賛を受けて文壇に認められました。
また小説執筆のほか、戯曲を書いたり活動写真(映画)の制作も行っていました。
37歳の時に関東大震災を経験し、関西への避難転居をきっかけに、それまでの耽美的・悪魔的な傾向の作風に変化が見られるようになりました。
それは、古典的・伝統的な日本美への傾倒です。
作品ごとにガラリと変わる巧みな語り口を特徴とした谷崎の作風は、着実な歩みを見せ、海外でも評価が高まることとなりました。
<作品冒頭>
一月一日。
.........僕は今年から、今日まで日記に記すことを躊躇していたような事柄をもあえて書き留めることにした。
僕は自分の性生活に関すること、自分と妻との関係については、あまり詳細なことは書かないようにして来た。
それは妻がこの日記帳を秘かに読んで腹を立てはしないかということを恐れていたからであったが、今年からはそれを恐れぬことにした。
妻はこの日記帳が書斎のどこの抽出にはいっているかを知っているに違いない。
古風な京都の旧家に生れ封建的な空気の中に育った彼女は、今日もなお時代おくれな旧道徳を重んずる一面があり、或る場合にはそれを誇りとする傾向もあるので、まさか夫の日記帳を盗み読むようなことはしそうもないけれども、しかし必ずしもそうとは限らない理由もある。
今後従来の例を破って夫婦生活に関する記載が頻繁に現われるようになれば、果して彼女は夫の秘密を探ろうとする誘惑に打ち勝ち得るであろうか。
彼女は生れつき陰性で、秘密を好む癖があるのだ...。