夢野久作「骸骨の黒穂」

audiobook (Unabridged)

By 夢野久作

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直方の南の町外れに一軒の居酒屋があった。主人は藤六といい六十絡みの独身者の老人。

色白のハゲ頭でこの辺の人間の扱いを知っていた。彼の元には坑夫、行商人、界隈の百姓達が飲みに来る。

一杯屋の藤六藤六といって人気があった。藤六にはある妙な道楽があった。

それは、乞食を可愛がることで、どんなに客が多い時間でも乞食を見つけると、懐から何かしらを渡して立ち去らせた。

乞食には老人、女、子供や血気盛んなルンペン風の男もいた。麦の穂が出る頃になると、店に人のこない時間を見計らって、家の周囲の麦畑へ出て熱心に麦の黒穂を摘んでいた。

これも藤六のひとつの癖であったが、近所の人はそうは思わなかった。仏性の藤六が暇さえあれば善根をしているものと思って誰も怪しむ者はいなかったのだ。

藤六のおかげで直方には多くの乞食が集まって、乞食居酒屋や乞食藤六などと言われるほどだった。

そんな藤六が昨年、明治十九年の暮れにぽっくりと死んだ。巡回していた警察官によって発見され、色々と調べたが別に怪しい点はひとつもなかった。

まだ警察の仕事が大雑把だった明治二十年ごろ。人気の炭坑都市、筑前、直方の警察署内で起こった奇妙な殺人事件が動き出す。

夢野久作「骸骨の黒穂」