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「人間の運命はなかなか片付かないもんだな」
唯一の自伝的小説とされる晩年の名作
「道草」は、大正4年(1915年)6月から9月まで『朝日新聞』に連載された長編小説である。イギリス留学から帰国して、東京帝国大学で英文学の講師を務めながら「吾輩は猫である」を執筆していた当時を回顧して自伝的小説として書いたとされる。作品中では愛に飢えた主人公の健三に漱石自身を重ね、養父との確執、自身の夫婦関係も投影したとされている。
海外の留学から帰ってきて、大学で働いている健三は、絶縁した元の養父の島田と会う。もう十五、六年は会っていなかった。健三は声を掛けずに立ち去った。
島田とは、健三の父が今際の際に「絶交したから、向後一切付き合いをしてはならない」と言われた間柄であった。
比田の家に嫁いだ姉のお夏に、島田に会った時のことを話すと、彼は姉のところにも金の無心に現れたという。
家に帰った時、悪寒がして健三は早めに床に入る。その晩、妻に起こされた時に、島田の代理を名乗るものが家を訪れたことを聞かされた。
翌日にはその彼が玄関先にやって来た。吉田虎吉という恰幅のよい四十くらいの男であった。彼は島田の窮状を語り、彼と元通り付き合って欲しいと切り出したのである。健三は返答に窮した。島田が金を無心に来るであろうことは容易に想像できる。だが、健三の家もそれに応えられる余裕などない。だが、過去に島田に受けた恩を思うと、健三は無下に出来なかったのである......。