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「芋粥」(いもがゆ)は、1916年(大正5年)9月1日の『新小説』に発表された芥川龍之介の短編小説です。
古典の一話を題材をとし、「鼻」と並ぶ古典翻案ものの一つと位置づけられます。
自分が中学の四年生だった時の話である。
その年の秋、日光から足尾へかけて、三泊の修学旅行があった。
「午前六時三十分上野停車場前集合、同五十分発車」こう云う箇条が、学校から渡す謄写版の刷物に書いてある。
当日になると自分は、碌に朝飯も食わずに家をとび出した。電車でゆけば停車場まで二十分とはかからない。
――そう思いながらも、何となく心がせく。停車場の赤い柱の前に立って、電車を待っているうちも、気が気でない。
生憎、空は曇っている。方々の工場で鳴らす汽笛の音が、鼠色の水蒸気をふるわせたら、
それが皆霧雨になって、降って来はしないかとも思われる。その退屈な空の下で、高架鉄道を汽車が通る。
被服廠へ通う荷馬車が通る。店の戸が一つずつ開く。自分のいる停車場にも、もう二三人、人が立った。
それが皆、眠の足りなそうな顔を、陰気らしく片づけている。寒い。
――そこへ割引の電車が来た。こみ合っている中を、やっと吊皮にぶらさがると、誰か後から、
自分の肩をたたく者がある。自分は慌ててふり向いた。
「お早う。」
見ると、能勢五十雄であった